退職して1週間が経った頃、外に出られなくなった。
最初は「今日は出なくていいか」だった。
次の日は「まだいいか」になった。
気づいたら1週間、外に出ていなかった。
コンビニに行こうとして、足が止まった
ある日、コンビニに行こうとした。
玄関まで出た。
靴を履いた。
ドアに手をかけた。
手が止まった。
「昼間からうろうろして無職か」と思われる気がした。
近所の人に会ったら何を話せばいいかわからなかった。
「仕事は?」と聞かれたら何と答えるのか。
そう思った瞬間、体が動かなくなった。
引き返した。
靴を脱いで、部屋に戻った。
また天井のシミを数えた。
この繰り返しが何週間も続いた。
「意志が弱いだけだ」と思っていた
外に出られない自分を、最初は「意志が弱いだけだ」と思っていた。
気合を入れれば出られる。 頑張れば動ける。 そう思っていた。
でも気合を入れようとすると、胸が重くなった。
「出なければいけない」と思うほど、体が固まった。
現場では雨の日も炎天下も走り回っていた。 その人間が、玄関のドアを開けることができない。
その落差が、また自分を追い詰めた。
「俺はもう終わりだ」と思った。
後から医者に言われた言葉がある。
「外に出られなくなるのも適応障害の症状の一つです。脳が外を危険だと判断して体を止めているんです。意志の問題じゃないです」
その言葉で少し楽になった。
意志が弱いんじゃなかった。
脳が壊れていたんだ。
1週間風呂に入れなかった
外に出られないということは、銭湯にも行けないということだ。
ちょうどその頃、自宅の風呂が壊れていた。
エコキュートが故障して、お湯が出なくなっていた。
業者に連絡したら「部品がないため修理できません」と言われた。
新品に買い替えたら70万円だと言われた。
無職で、毎月貯金を削りながら生きている状態で、70万円の話が来た。
風呂が壊れている。
でも銭湯にも行けない。
1週間、風呂に入れなかった。
妻が「せめて銭湯だけでも行こう」と言ってくれた。
家族で近所の銭湯に行った。
子供は「銭湯楽しい」と言っていた。
私は「銭湯楽しいな」と返しながら、心の中では「早くなんとかしなければ」という焦りが消えなかった。
それでも銭湯に行けた。
その日が、外に出られた最初の日だった。
外に出られない状態が続いた理由
今から思えば、外に出られない状態には理由があった。
一つは「判断のコスト」が高くなっていたことだ。
普通の人が「コンビニに行く」と決めるのに1秒もかからない。
でも適応障害で脳のエネルギーが枯渇した状態では、「コンビニに行く」という判断だけで大量のエネルギーを使う。
「何を買うか」「誰かに会ったらどうするか」「どのルートで行くか」
そういう細かい判断が全部重くのしかかってくる。
結果として「行かない」という選択が一番楽になる。
もう一つは「見られる恐怖」だった。
昼間に外を歩いている自分を、誰かに見られることが怖かった。
「あの人、無職なのかな」と思われる気がした。
実際にはそんなこと誰も気にしていない。
でもその頃の私には、外の全員が自分を見ているような感覚があった。
これも適応障害の症状の一つだと後からわかった。
外に出るための「最初の一歩」
外に出られない状態から動き始めたきっかけは、職業訓練校だった。
妻が「毎日行く場所がある仕組みを作ったらどうか」と言ってくれた。
職業訓練校に申し込みの電話をした。
手が震えていた。
でもかけた。
翌日、郵便ポストに行くために外に出た。
玄関を出て、駐車場を歩いて、ポストまで行った。
それだけで5分かかった。
10メートルくらいの距離に5分かかった。
でも出られた。
外に出ることへの恐怖は、少しずつしか消えない。
でも「出た」という事実が積み重なると、少しずつ動けるようになっていった。
コンビニに行けるようになるまで、さらに1週間かかった。
適応障害で引きこもりになっている人へ
外に出られない日が続いているかもしれない。
「意志が弱いだけだ」と自分を責めているかもしれない。
「もっと頑張れば出られるはずだ」と思っているかもしれない。
伝えたいことは一つだ。
それは意志の問題じゃない。
脳が「外は危険だ」と判断している状態だ。
骨折した足で走れないのと同じだ。
動けないのは、あなたが弱いからじゃない。
私はそこから動き出した。
今はポッドキャストを配信して、ブログを書いて、前に進んでいる。
完全復活じゃない。まだ途中だ。でも動いている。
次の記事では「妻子持ちで無職。家族に言えなかった本音」を書く。
どん底にいた頃、家族に「大丈夫だ」と言い続けた日々の記録だ。
もっと読みたい人へ
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壊れたことは、終わりじゃなかった。 私がその証拠だ。

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