昨日、14時。 オフィスの静寂を破ったのは、誰かのくしゃみでも、電話のベルでもなく、場違いな「過去の栄光」でした。
「前職では、こういうフローでやっていまして…」
カチャカチャと響いていたメンバーのタイピング音が、ピタリと止む。
永遠にも感じる、5秒間の沈黙。
気づいていないのは、本人だけ。
今回は、あえて厳しいことを書きます。 もしあなたが、新しい環境で「前の会社では」という言葉を口癖にしているなら。 あるいは、これから新しい環境へ飛び込もうとしているなら。
この記事を読んで、その「過去の看板」を、入館証と一緒にシュレッダーにかけてください。 そうしなければ、あなたは一生、新しい場所で「戦力外」扱いされ続けることになります。
なぜ「前職では」という言葉は、これほどまでに嫌われるのか
まず、冷静に分析しましょう。 なぜ、このたった一言が、現場の空気を凍らせ、既存メンバーの心を閉ざしてしまうのか。
それは、その言葉の裏に透けて見える「マウント」と「思考停止」を、現場の人間は敏感に感じ取るからです。
1. 「俺はここ(今の会社)のやり方を認めていない」という拒絶
「前職では…」と言う時、その人は無意識にこう言っています。 「前の会社の方が優れていた。今の君たちのやり方は遅れている」と。
たとえその提案が正しかったとしても、信頼関係ができていない段階でこれを言われると、現場は「否定された」と感じます。 「郷に入っては郷に従え」という言葉がありますが、まずはその土地のルールをリスペクトし、汗をかいて馴染もうとする姿勢がない人間に、誰も耳を貸しません。
2. 「思考停止」の証明
「前職のやり方」を持ち出すのは、実は一番楽な方法です。 今の会社の課題、リソース、人間関係、文化。それらを深く分析し、「今の最適解」を考えるのは疲れます。 だから、脳みその引き出しから「過去の成功体験」をそのままコピペしようとする。
それは解決策の提案ではありません。ただの「思考のサボり」です。 現場のメンバーは、それを見抜いています。 「あの人は、今の私たちを見ていない。過去の幻影を見ているだけだ」と。
そのスーツを脱いだら、あなたには何が残っている?
ここで、改めてあなたに問います。
「前の会社」という看板、「部長」という肩書き、「高級スーツ」という鎧。 それらをすべて剥ぎ取られ、パンツ一枚の裸になった時、あなたには何が残っていますか?
もし、そこで答えに詰まり、空っぽだと感じるなら。 あなたは今まで、会社の看板で仕事をしていただけで、自分自身の力で仕事をしていなかった証拠です。
わたし自身、これを痛いほど味わいました。 「社長」という肩書きを失い、適応障害で無職になった時。 社会から放り出され、ただの「中年の無職男性」になった時。 過去にどれだけ売上を作ろうが、どれだけ部下がしかろうが、そんなものは今の生活において1円の価値もありませんでした。
「元・社長です」 ハローワークでそう言えば、仕事がもらえると思いましたか? いいえ、鼻で笑われるだけです。
「今、何ができるの?」 「Excelは使える? 現場で重いものは持てる?」
問われるのは、いつだって「今、この瞬間の実力」だけなのです。
「過去」を捨て、「新人」として汗をかく覚悟
もしあなたが、転職先や新しい環境で「あの人はすごい」と言わせたいなら。 やるべきことは、過去の自慢話ではありません。
口を動かすな。手を動かせ。
これに尽きます。
1. 誰よりも早く出社し、誰よりも雑用をしろ
元管理職だろうが、元社長だろうが関係ありません。 新しい環境に入ったら、あなたは「一番下の新人」です。
コピー用紙の補充、ゴミ捨て、電話対応。 誰もやりたがらない仕事を、誰よりも率先してやってください。 「あの人は、口だけじゃなくて手も動かす人だ」 その信頼の貯金ができて初めて、あなたの「前職の知見」は聞き入れられるようになります。
2. 「前職では」を「翻訳」して伝えろ
どうしても前職のノウハウを伝えたい時は、言葉を変えてください。 「前職ではこうだった」ではなく、 「この課題に対して、こういうアプローチを試してみるのはどうでしょう?」 と、あくまで「今の課題」に対する提案として話すのです。
出典(前職)はどうでもいい。中身(解決策)だけで勝負してください。 それが本当の実力者です。
3. 「教えてください」と言える強さを持て
年下の上司や、経験の浅い同僚に頭を下げるのを恥ずかしがっていませんか? 「俺の方が経験があるのに」と思っていますか?
そのちっぽけなプライドが、あなたの成長を止めています。 その場所のことは、その場所に長くいる人が一番よく知っています。 素直に「ここのやり方を教えてください」と言える人こそが、最終的にその場所のトップに立てる器を持った人間です。
結論:今日を全力で生きる「裸の戦士」になれ
昨日の14時、静まり返ったオフィスで、わたしは自分自身にも矢印を向けました。
「俺も、無意識に『昔はこうだった』と思っていないか?」 「『元社長』という終わったコンテンツにしがみついていないか?」
過去の栄光は、麻薬です。 浸っている間は気持ちいいけれど、気づけば現実はボロボロになっていく。
だから、入館証と一緒に捨てましょう。 過去の実績も、プライドも、高そうなスーツも。
心は常に「裸」でいい。 今日できること、目の前の人が喜ぶこと、泥臭い作業。 それに全力で向き合える人間だけが、何度どん底に落ちても、また這い上がれるのです。
もしあなたが今、空っぽだと感じるなら。 ラッキーです。 これから何でも詰め込める。
さあ、口を閉じて。 PCを開き、現場へ走り、手を動かしましょう。 あなたの本当のキャリアは、「過去の話」をやめた瞬間から始まるのです。

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