退職願という「爆弾」を懐に入れたあなた。心臓の音が聞こえてきそうですね。 あとはこれを手渡すだけですが、渡す相手を間違えると、その爆発であなた自身が大怪我をします。
「宛名は社長名だから、社長に直接渡すのが筋だろう」 「直属の上司とは仲が悪いから、その上の部長に出そう」
これは、全部NGです。
組織には組織の「メンツ」と「ルール」があります。 ここを無視すると、退職交渉がこじれ、有給消化ができなくなったり、退職日が伸びたりするリスクがあります。

今回は、元社長の視点から、「誰に渡せば最短・最速・円満に辞められるのか」というファイナルアンサーをお伝えします。
鉄則:渡す相手は「直属の上司」一択
結論から言います。 退職願を渡す相手は、人事部でも社長でもありません。 「あなたの指揮命令系統の、一番近くにいる上司」です。
- 課長がいるなら、課長。
- 班長がいるなら、班長。
- 店長がいるなら、店長。
たとえ宛名が「代表取締役社長」であっても、手渡すのは直属の上司です。
なぜ「直属の上司」なのか?(社長の本音)
もしあなたが、課長を飛ばして、いきなり私(社長)のところに退職願を持ってきたら、私はどう思うか。 「君の熱意はわかった。でも、課長はこれを知ってるの?」 と聞きます。
そして心の中で、「課長は部下の管理もできていないのか」と、課長の評価を下げます。 同時に、「組織のルールを守れない君(退職者)」に対しても、面倒なやつだなと感じます。
上司を飛ばす(中抜きする)行為は、組織において「上司の顔に泥を塗る」最大のタブーです。 メンツを潰された上司は、あなたの退職手続きに対して協力的ではなくなるでしょう。 「あいつは勝手なことをした」と、有給消化の妨害や、嫌味な引き継ぎを強要してくるかもしれません。
立つ鳥跡を濁さず。 最後くらいは上司の顔を立てて、「あなたが一番最初に相談しました」という形をとるのが、賢い大人の処世術です。
例外:「直属の上司」に出さなくていい2つのケース
ただし、何事にも例外はあります。 以下の状況なら、直属の上司を無視してOKです。
1. 直属の上司が「パワハラの加害者」である場合
辞める原因が上司そのものである場合、その人に退職願を出すのは自殺行為です。 握りつぶされたり、「お前はどこに行っても通用しない」とさらに説教されたりするだけです。
この場合は、「その上司の、さらに上の上司(部長など)」か、「人事部」に直接駆け込んでください。 その際、「本来は直属の上司に通すべきですが、事情が事情なので……」と一言添えれば、会社側も察して守ってくれます。

2. 直属の上司が「常に不在」または「機能していない」場合
上司が病気療養中だったり、名ばかり管理職で全く現場に来ない場合。 いつまで経っても渡せないので、その上の責任者にアポを取って渡しましょう。 これは正当な理由なので、誰も文句は言いません。
どうやって渡す?「アポ取り」から「手渡し」まで
「朝礼の時に、みんなの前で渡す」 「上司の机の上に黙って置いておく」
これもNGです。退職はデリケートな個人情報です。 以下の手順で、隠密に遂行してください。
- アポを取る: メールや口頭で「今後のことで、少しご相談したいことがあります」と伝える。 ※勘のいい上司なら、この時点で「辞める気だな」と察します。
- 個室(会議室)に入る: 他の社員の目が届かない場所を確保してもらいます。
- 切り出す: 「突然で申し訳ありませんが、退職させていただきたいと考えております」 と伝え、懐から白い封筒を取り出して差し出します。
この「作法」を守るだけで、上司は「こいつは最後まで礼儀正しいやつだったな」と認識し、その後の手続きが驚くほどスムーズになります。
まとめ:敵を作らずに「勝ち逃げ」しよう
退職願を出す瞬間は、あなたがその会社で見せる「最後の仕事」です。
嫌いな上司であっても、組織のルールに従って直属の上司に出す。 そうすることで、あなたは「社会人としてのマナーを守った」という実績を持って、堂々と会社を去ることができます。
感情的になって上司を飛ばしたり、社長に直訴したりしても、得することは一つもありません。 賢く立ち回り、敵を作らず、サクッと承認印をもらって、次のステージへ「勝ち逃げ」しましょう。


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