南鳥島レアアース揚泥成功の裏にある「3つの絶望的リスク」。水深6000mの現場は“採算”という怪獣とどう戦うか?

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「日本のEEZ(排他的経済水域)に、500兆円分のレアアースが眠っている」 夢のある話です。 そしてついに、南鳥島沖の水深6000mから泥を吸い上げる「揚泥(ようでい)」の実証実験に成功しました。

しかし、現場を知る人間として、私はまだシャンパンを開ける気にはなれません。 なぜなら、「実験室で成功すること」と「現場で利益を出し続けること」は別次元の話だからです。

今回は、バラ色のニュースに隠された、実用化を阻む「3つの高すぎる壁」について、冷徹にハックします。

目次

そもそも、なぜ6000m下の「泥」にこだわるのか?

これほど困難な場所にある資源を、なぜ日本は諦めないのか。 それは、南鳥島のレアアース泥が、世界中の鉱山屋が喉から手が出るほど欲しい「奇跡の物件」だからです。

1. 「毒」がない(放射性物質フリー)

陸上のレアアース鉱床(特に中国やブラジル)の最大の問題は、採掘時にトリウムやウランなどの放射性物質が一緒に出てくることです。 これを取り除く処理(除染)に莫大なコストと環境負荷がかかります。 しかし、南鳥島のレアアース泥には、この放射性物質がほとんど含まれていません。 つまり、「掘ってそのまま使える(処理コストが激安)」という、信じられないほどクリーンな資源なのです。

2. 世界最高レベルの「濃度」

レアアースの含有濃度が、陸上鉱床の数倍〜数十倍と言われています。 現場で言えば、「掘れば掘るだけ当たりが出る鉱脈」です。 技術的コストが高くても、この「質の良さ」があるからこそ、ペイできる(採算が合う)可能性が残されているのです。

壁その1:異次元の「技術的ハードル」。水深6000mは宇宙より遠い

まず、現場の環境が「無理ゲー」です。

600気圧=指先に軽自動車

水深6000mの水圧は、約600気圧。 よく言われる例えですが、「指先に軽自動車を乗せた状態」です。 生身の人間はもちろん、普通の潜水艇でもペシャンコになります。

この極限状態で、巨大なポンプやセンサーを24時間365日、故障なく動かし続ける。 建設現場でさえ、雨や粉塵で機械はすぐ壊れます。修理に行けない深海で、どうやってメンテナンス計画(保全)を組むのか。技術者たちの苦悩は計り知れません。

6kmのパイプで泥を吸う恐怖

「揚泥」とは、海上の船から6km下の海底までパイプ(ライザー管)を垂らし、泥を吸い上げることです。 6kmですよ? 富士山を2つ積み上げた高さです。 海流でパイプはたわみます。泥が詰まれば一発アウトです。 この超長距離輸送システムを安定稼働させるのは、宇宙ステーションを作るのと同じくらい困難なミッションです。

壁その2:深海を汚すな。「環境リスク」という国際的な監視

次に立ちはだかるのが、環境問題です。

「死の雲」プルーム問題

海底の泥をガリガリ削って吸い上げれば、当然、周囲に泥煙が舞い上がります。これを**「プルーム」**と呼びます。 深海の生物は、非常に澄んだ水の中で、数百万年かけて独自の生態系を築いてきました。 そこに泥の雲が広がれば、彼らの呼吸器官が詰まり、生態系が壊滅する恐れがあります。

国際社会の目

「レアアース欲しさに、貴重な深海生物を絶滅させた」となれば、国際的な非難は避けられません。 SDGsが叫ばれる今、環境への配慮なしに開発を進めることは不可能です。 「安く掘る」だけでなく「綺麗に掘る」技術が求められています。

壁その3:最強のラスボス「採算性」と中国の影

そして、最大の壁がこれです。「カネ」です。

「輸入した方が安い」の罠

深海採掘には、船の燃料費、機材費、人件費など、天文学的なコストがかかります。 一方で、現在市場を独占している中国は、陸上で安く採掘しています。 もし、日本の深海レアアースが「1kg=1万円」かかり、中国産が「1kg=1000円」だとしたら? 誰も高い国産資源を買いません。「採算が取れないから事業撤退」。これが過去の海底資源開発が辿ってきた悲しい末路です。

中国の「経済的嫌がらせ」

さらに怖いのが、中国の動きです。 日本が本気で実用化に乗り出せば、中国は一時的にレアアースの価格を暴落させ(ダンピング)、日本の採掘事業を赤字に追い込んで潰しに来るでしょう。 これはビジネスではなく、経済戦争です。

現場監督視点:これは「儲け」ではなく「保険」の話だ

先ほど「中国より高ければ売れない」と言いましたが、実はこれには裏のロジック(BCP:事業継続計画)があります。

「首根っこ」を掴まれないためのコスト

もし明日、台湾有事などが起きて、中国が「日本へのレアアース輸出禁止」を宣言したらどうなるか? 日本のハイテク産業(EV、スマホ、ミサイル部品)は、その瞬間に即死します。工場が止まり、経済が麻痺します。

南鳥島の開発は、平時は赤字でも構わないのです。 「いざとなれば自前で調達できる」というカード(パイプライン)を持っていること自体が、中国に対する最強の抑止力になります。 現場監督として言えば、これは「絶対に止めてはいけないラインのための、高額な保険料」です。 500兆円の利益を出すためではなく、日本の産業死を防ぐための「国家の生存コスト」。そう割り切れるかどうかが、今後の政治判断のキモになります。

まとめ:これは「技術」ではなく「国家意志」の戦いだ

今回の揚泥成功は、あくまで「技術的に可能だ」と証明したスタートラインに過ぎません。

ここから先は、 「赤字でも国策として掘り続ける覚悟があるか」 「環境を守りながらコストを下げるイノベーションを起こせるか」 という、第2ラウンドの戦いが始まります。

私たち国民も、「すごい!」と喜ぶだけでなく、「そのコストを誰が負担するのか?」という視点を持って、このプロジェクトを見守る必要があります。 日本の未来を変えるのは、技術者たちの執念と、私たちの冷静な判断力です。

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