昼間に少しだけアーク光を直視した。
そのときは何ともなかった。
なのに夜中の2時に目が焼ける痛みで飛び起きるんです。
砂をすり込まれたような激痛で目が開かん。
今日はその話をさせてください。
1. 鉄を繋ぐ便利な技術。だが一歩間違えば自分の体を焼く
現場で鉄を繋ぐならアーク溶接です。
これほど頼りになる技術はありません。
私も長いこと溶接で飯を食ってきました。
指導する立場にもなりました。
でも同時に思うことがあります。
この技術は一歩間違えれば凶器になるんです。
溶接のアークは太陽と同じような光を出します。
その中には強烈な紫外線が含まれている。
目を焼く光です。
そして先端は数千度の熱を持ちます。
鉄を溶かす熱です。
その熱が自分の体に向かえば肉なんか簡単に焼けます。
なのに舐めている若手が多すぎる。
ちょっとくらい直視しても平気やろ。
面倒やから軽装でええやろ。
その油断が一晩で地獄を見せるんです。
アーク溶接は電気と光と熱を同時に扱う作業です。
感電も火災も火傷も全部起こり得る。
だから正しい知識なしで溶接棒を握ったらあかんのです。
2. アーク溶接等特別教育とは何か
まず一つ誤解を正しておきます。
これは国家資格やありません。
正式には「アーク溶接等の業務に係る特別教育」といいます。
労働安全衛生法にもとづいて事業者が受けさせる教育です。
免許や技能講習とは制度上の区分が違うんです。
ちなみにガス溶接は技能講習になります。
アークは特別教育。
別物やから片方を持っていても代わりにはなりません。
対象になる作業の範囲は広いです。
被覆アーク溶接はもちろん半自動もTIGも入ります。
アークを使う溶接や溶断はほぼ全部が対象と思ってください。
これを受けずに作業させたら事業者の責任問題になります。
中身は学科11時間と実技10時間の計21時間です。
費用は2万円前後。
修了試験はありません。
18歳以上なら誰でも受けられます。
そして修了証に有効期限はなく更新も要りません。
ここで大事なことを言います。
この教育は溶接が上手くなるための講習やないんです。
ビードを綺麗に引く技術を教える場やない。
学ぶのは自分の身を守るための理論です。
なぜ光が目を焼くのか。
どういう条件で感電するのか。
どうすれば火災を防げるのか。
技術を磨くのはその後でええんです。
まず身を守る理屈を頭に入れる。
それがこの特別教育の役割なんです。
【特別教育をWEBで!eラーニング現場系・国家資格のSAT】3. 指導員が語る現場のリアルな恐怖と絶対ルール
ここからは私が実際に見てきた話をします。
まず電気性眼炎です。

現場では目を焼いたと言いますね。
これの一番の罠が屋外作業なんです。
屋内で溶接すればアーク光は目が痛いほど眩しい。
だから誰でも身構えます。
でも屋外は違うんです。
明るい日差しの中ではアーク光が弱く見える。
たいしたことないと錯覚するんです。
そこで面を下ろすのが一瞬遅れる。
ちょっとなら大丈夫やろと直視してしまう。
これが一番あかんのです。
そして恐ろしいのがここからです。
浴びた直後は何ともありません。
痛みが出るまでにおよそ8時間から10時間の潜伏があるからです。
紫外線で角膜の表面が傷つく。
その傷んだ細胞が剥がれ落ちてくる頃にやっと痛み出す。
だから昼に浴びた光が夜中に襲ってくるんです。
目が開かんほどの激痛と涙。
救急外来に駆け込む人間が本当に多い。
しかも溶接の光には太陽光には届かない種類の紫外線まで含まれています。
一番細胞を傷める帯域です。
弱く見えても中身は凶悪なんです。
次に忘れられがちな感電の話です。
溶接は電気を使う作業です。
ホルダーの絶縁が破れていたらそこから電気が来ます。
汗で濡れた体は電気を通しやすい。
タンクの中やピットのような狭くて湿った場所は特に危ない。
休憩でホルダーを鉄板の上に放り出すのもあかんのです。
次に火の話をします。
溶接に夢中になっていて足元が燃えていたことがあります。
本当の話です。
熱に集中していると足元の火に気づかんのです。
ここで勘違いしてほしくないことがあります。
防炎の作業服を着ていれば安心やと思ってませんか。
それは違います。
油や塗料やシンナーが染み込んだ服はよく燃えるんです。
生地が防炎でも染み込んだものが燃える。
一瞬で火だるまになります。
汚れた作業服は防具やなくて燃料なんです。
そしてもう一つ。
足元の油や段ボールやウエスを片付けずに始めるな。
火花は思っているより遠くまで飛びます。
数メートル先で燻って後から燃え出すこともあるんです。
それと屋内で溶接するなら煙も無視できません。
溶接ヒュームには金属の細かい粒が含まれています。
これを吸い続けると肺をやられます。
今は屋内作業に対して法令で対策が求められる時代です。
換気と防じんマスクは面倒でも省いたらあかんのです。
最後に指導員として一番言いたいことを言います。
終わりまで気を抜くな。
溶接が終わってビードが冷えかけた頃です。
表面のフラックスが弾け飛ぶことがあるんです。
まだ熱を持ったカスが顔に飛んでくる。
このときに面を上げていたらどうなるか。
目に入って角膜を焼きます。
皮膚に当たれば火傷です。
終わった瞬間が一番無防備なんです。
だからスラグを叩くまで防具は外したらあかん。
保護メガネと手袋はつけたまま。
これが最後まで生き残る人間のやり方です。

4. 溶接は素晴らしい技術や。だが体を犠牲にしてまでやる仕事やない
最後に伝えたいことを書きます。
溶接は素晴らしい技術です。
鉄と鉄が一つになる瞬間は今でも気持ちがいい。
一生食っていける腕でもあります。
でもその腕を活かすには体が要るんです。
目を焼いた人間は数日仕事になりません。
何度も繰り返せば視力にも影響が出ます。
火傷を負えば現場に立てなくなる。
自分の体を犠牲にしてまでやる仕事やないんです。
一生現場で飯を食う。
そのために最初に装備すべきものがあります。
面でも革手でもありません。
知識という防具です。
なぜ危ないのかを知っている人間だけが長く生き残ります。
それを手に入れるのが特別教育なんです。
ただしここで一つ言いたいことがあります。
この命を守る大事な教育です。
でもそのために貴重な休日を丸ごとパイプ椅子で溶かす必要はありません。
今はもっと賢い取り方があるんです。
そのやり方は次の記事にまとめました。
溶接の面と同じやと思ってください。
面を下ろさずにアークを見る人間はおらんでしょう。
知識も全く同じ防具です。
下ろしてから火を飛ばす。
その順番を守る人間だけが目も肌も無事なまま現場に立ち続けられるんです。
本日もご安全に!

コメント