「F10Tより強いボルトってないんですか」
高力ボルトを調べていくとそんな疑問にぶつかる人がいます。
なおこの記事は一般的な高力ボルト(摩擦接合用高力ボルト)の話です。
実は昔もっと強いボルトがありましたが今はあまり使われていないんです。
もっと強いF11Tはあった でも遅れ破壊で消えたと言われている
先に答えを置きます。
かつてF10Tより強いF11Tがありましたが遅れ破壊の問題から使われなくなりました。
数字だけ見ればF11TはF10Tより強いボルトです。
それでも強いほうが生き残ったわけやありません。
強さと引き換えに信頼性で不安が出た。
そこが分かれ道になったんです。
強ければええという単純な話やないんです。
そもそも高力ボルトとは何なのかはこの記事で解説しています

遅れ破壊とは何か
ではその遅れ破壊とは何か。
ここは大事なところなので慎重に触れます。
遅れ破壊とは締め付けてしばらく経ってから前触れもなく突然割れることがある現象です。
ぶつけたわけでも急に大きな力をかけたわけでもありません。
静かに時間が経ったあとで脆く割れることがあるんです。
原因は鋼材に入り込んだ水素による脆化が主だというのが一般的な見解です。
ねじ部や応力の集まる部分に水素が集まって割れにつながるという見方なんです。
ただこの現象は原因や条件が完全には解明されていないとも言われています。
だからここでは断定を避けます。
分かってきたのは強い鋼ほどこの遅れ破壊が出やすい傾向があるということです。
裏を返せば遅れ破壊はすべての高力ボルトで起こるという意味やありません。
強さを追うと別のリスクが顔を出す。
正確なメカニズムや発生条件は専門機関や公式の技術資料で確認してください。
古い現場で聞いた話
ここで私の記憶を一つだけ置いておきます。
昔の現場でF11Tという言葉を聞いた覚えがあります。
先輩から「あれは遅れ破壊があるから使わへん」といった話を聞いた記憶なんです。
私はその割れる瞬間を見たわけでも検証したわけでもありません。
あくまで現場で語り継がれていた話として耳に残っているだけです。
だからここは体験談ではなく伝聞として受け取ってください。
それでも現場で自然にそう言われていたこと自体が一つの答えなのかもしれません。
使う側がリスクを避けてきた空気は確かにありました。
だから今はF10Tが標準とされる
F11Tは規格の面でも扱いが狭まっていきました。
日本工業規格では1995年の改正で使用を控える扱いとされ2013年の規格では削除されています。
製造そのものも1981年ごろに中止されたと複数の技術資料で説明されています。
そうした流れの先で今があります。
今の高力ボルトはF10Tが標準的に使われています。
橋や建物の設計や規格でもF10Tまでが一般的に用いられる範囲とされています。
F10TはF11Tよりわずかに強度は下がります。
それでも遅れ破壊の心配が小さい。
そこが選ばれた理由なんです。
強さの数字を一つ落としてでも信頼を取った。
そういう選択の跡なんです。
F10TやF11Tの数字の10や11は強さの目安と関わっています。
その数字が何を表すのかは別の記事にまとめました。
ボルトの数字が強さのどこを表すのかはこの記事に書いています

なお古い建物や橋でF11Tが使われている場合もあります。
点検や取り替えが要るかどうかは専門家や所轄や有資格者の判断による話です。
不安を煽るためやなく正しい窓口につなぐために書いておきます。
まとめ 強さと信頼はイコールやない
高力ボルトの歴史は強さを追うだけの歴史やありませんでした。
数字が大きいほど偉いわけやないんです。
強いことと信頼できることは同じやありません。
抜けたら困る場所ほど求められるのは強さより信頼のほうです。
一番強い一本が一番いい一本とは限らない。
その事実がボルトの世界にも刻まれているんです。

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