「写真撮っといて」。
先輩にそう言われてスマホを構えたものの、何を撮ればいいのか分からず固まってしまう。
施工管理や現場監督になったばかりの頃はそれが普通なんです。
工事写真の撮り方を一から教えてくれる現場は案外少なく、初心者はいきなり本番に立たされます。
私は施工管理や現場所長を経験する中で、工事写真を自分で撮ってきました。
公共工事の写真も補助金関連の工事の写真も撮ってきた側です。
その経験から最初に伝えたいことは一つだけ。
工事写真は撮り直しがきかない記録です。
工事写真は後から取り返せない記録 結論から
工事写真の撮り方で最初に覚えてほしいのは技術より考え方です。
施工写真の撮り方も呼び方が違うだけで根っこは同じやと思います。
写真は後から取り返せない。
この一点を腹に入れておけば撮るべきものは自然と見えてきます。
工事写真は何のために撮る?
工事写真は施工状況や出来形などを記録し、後から確認・説明するための重要な資料です。
現場では施工したことを説明する記録にもなり、何年も先の点検や改修で中がどうなっているかを知る手がかりになることもあります。
問題はその多くが工事が進むと見えなくなることです。
配管は埋まり鉄筋はコンクリートに隠れ、下地は仕上げの裏に消えていきます。
埋まる前、隠れる前に撮れなかった写真は二度と撮れません。
掘り返したり壊したりしない限り確かめようがないのが、工事写真の一番怖いところです。
工事写真は誰のために残す?
写真を見るのは発注者だけではありません。
発注者は工事を頼んだ側で、元請は発注者から工事を直接請けて現場をまとめる会社のことです。
検査をする人も何年も先にその建物や設備を触る人も写真を頼りにします。
そしてもう一つ忘れてはいけないのが自分と会社を守るという目的です。
「本当にやったのか」と聞かれた時に黙って見せられる写真があるかどうか。
それだけで話の進み方はまったく変わります。
公共工事や補助金を利用する工事では、仕様書や制度の要領などに基づいて工事写真の提出や保存が求められる場合があります。
何をどれだけ撮るかは工事や制度ごとに違うので、仕様書・実施要領・交付元の指示を必ず確認してください。
私は元請側に立つことが多く一次下請として入ることもありました。
言った言わないを避けるために書面やメールで残して自衛してきたのと、写真を残すのは同じ根っこです。
言った言わないで揉める現場で私が書面を残してきた理由はこちらに書いています

工事写真はいつ撮る?
初心者向けに考えるなら、着工前・施工中・完成後の三つに分けると整理しやすいです。
そこに完成後に見えなくなる部分の撮影を特に意識します。
着工前は何を撮る?
着工前に撮るのは手を付ける前の現況です。
周りにある既存の建物や設備の状態も含めて残しておきます。
特に大事なのは工事前からあった傷や汚れです。
これが写っていないと、工事後に傷の原因を確認するとき工事前の状態を写真で示せません。
施工中は何を撮る?
施工中は工程ごとの状況を撮ります。
どの順番で何をしたのか写真を並べて追える状態が理想です。
材料の搬入や使用状況も押さえておきます。
指定された材料を使用したことを写真で確認できるようにするには、材料や表示が確認できる段階で撮っておくことが大切です。
完成後は何を撮る?
完成後は出来上がりの全体と要所を撮ります。
全体でどこの何が完成したかを見せ、要所できちんと納まっているかを見せるイメージです。
完成写真はいつでも撮れると油断しがちです。
引き渡しや次の工事が始まれば状態は変わるので、早めに撮っておいてください。
隠れて見えなくなる部分はいつ撮る?
一番の撮り忘れポイントがここです。
不可視部分とは埋め戻し・被覆・仕上げなどで、完成後に見えなくなる部分のことを言います。
隠れる部分は隠れる前が勝負です。
国土交通省の写真管理基準(案)でも、不可視となる出来形部分については出来形寸法が確認できるよう特に注意して撮影するとされています。
出来形とは施工が終わった部分の形状や寸法などのことです。
完成後に確認できなくなる部分があるため、基準でも不可視部分の撮影について特に注意するよう示されています。
大事なのは工程の先を読むこと。
明日埋め戻す、午後から仕上げに入ると分かっていれば、前もって撮る段取りが組めます。
職人さんに隠す前にひと声かけてもらうよう頼んでおくのも効きます。
自分一人の目だけで全部を追いかけようとしないことが撮り忘れを減らす近道です。
迷ったら引きと寄りを多めに撮る
全景と近景はどう撮り分ける?
全景は引きで撮った写真でどこの写真かが分かります。
近景は寄って撮った写真で何をしたかが分かります。
片方だけでは伝わりません。
寄りだけでは場所が分からず引きだけでは中身が見えないので、セットで撮ると位置関係まで伝わります。
私が写真を頼む時にずっと伝えてきた言葉があります。
「引きと寄りを多めに撮っておいて。そうすれば後でどうにかなる」
ここで言う「どうにかなる」は、写真が多ければ後から必要なカットを選べるという意味です。
検査や説明の場面で材料が手元に残っているということでもあります。
撮りすぎた写真は後で選べます。
でも撮らなかった写真は選びようがありません。
寸法や位置はどう分かるようにする?
出来形寸法などを写真で確認する箇所では、スケール等の目盛りと対象物の位置関係が確認できるように撮ります。
目盛りがぼやけていたり角度が悪くて読めなかったりすると、記録としての力が弱くなります。
何にどう当てて撮るかは工種や発注者の基準で変わります。
工種とは土工やコンクリート工のように工事を種類ごとに分けた呼び方で、基準もこの単位で決まっていることが多いです。
危ない場所でも撮らなあかん?
撮らなあかん写真でも危ない場所には入りません。
撮影より安全が先です。
高所や重機の作業範囲・吊荷の下・開口部付近・交通規制箇所・稼働中設備の周辺などへ、写真を撮るためだけに無理に立ち入らないでください。
特に吊荷の下には何があっても入りません。
写真のために終わった作業をもう一度やってもらうのもやめてください。
どうしても必要な写真があるなら、現場の責任者やその作業を指揮・管理する人に相談します。
作業主任者が必要な作業なら、その指示にも従います。
安全が確保された位置から撮る方法を一緒に考えてもらうのが正しい順番です。
黒板と写真の管理はどうする?
黒板や電子小黒板には何を書く?
黒板は写真に写し込む情報の札です。
記載する項目は工事や写真管理基準によって異なりますが、工事名や工種・撮影箇所などを書いて写真だけでも内容を確認できるようにします。
何をどう撮るかの基準は発注者や工事によって変わります。
国土交通省の土木工事では、写真管理基準(案)の撮影箇所一覧表に工種等に応じた撮影項目や撮影頻度が示されています。
自治体や発注機関が独自の基準を持っていることもあります。
民間工事なら発注者との契約や元請の決まりに従うので、「前の現場ではこうだった」をそのまま持ち込まないことです。
電子小黒板は撮影と同時に黒板の情報を写真へ電子的に書き込む仕組みです。
国土交通省ではデジタル工事写真の小黒板情報電子化について、通知・基準が定められています。
国土交通省の写真管理基準(案)では、写真の信憑性を考慮して写真編集は認めないとされています。
ただし国交省の所定の通知に基づく小黒板情報の電子的記入は、この写真編集には当たらないとされています。
使えるかどうかや手続きは発注者や工事によって違います。
使う前に対象工事の仕様や発注者の運用を必ず確認してください。
撮影日や工種はどう管理する?
撮った写真はその日のうちに仕分けする習慣を付けてください。
溜めるほど何の写真か分からなくなります。
似た写真が何十枚も並ぶと場所も工程も思い出せなくなるものです。
記憶が新しいうちに日付と工種で分けておくだけで、後の手間がまるで違います。
撮った写真はどう整理する?
整理の基本は工種や工程ごとに分けて、後から探せる状態にしておくことです。
フォルダの分け方やソフトは現場や会社のやり方に合わせれば構いません。
大事なのは自分以外の人が見ても探せること。
担当が変わっても写真がたどれるなら記録として生き続けます。
撮り忘れると何が困る?
撮り忘れはなぜ起きる?
正直に言うと私にも撮り忘れはあります。
中小企業の現場では自分も作業しながら写真を撮ることがあり、手が回らず撮り忘れることがありました。
これは言い訳ではありません。
忙しい現場では起こり得ることだからこそ、気合いではなく仕組みで防ぐ必要があるんです。
工程表に撮るタイミングを書き込んでおく。
隠す前に声をかけてもらう約束をする。
誰が撮るかを最初に決めておくのも効きます。
検査で説明できないとどうなる?
必要な工事写真がないと、施工状況や出来形を写真で説明・確認できなくなります。
施工そのものに問題がなくても、必要な記録が残っていなければ後から確認や説明をするのが難しくなります。
場合によっては確認のための追加の対応が必要になることもあります。
見えない部分ほど確かめる手間は大きくなりやすいので、結局は撮っておくのが一番の近道です。
協力会社任せにすると何が起きる?
協力会社とは元請の下で実際の作業を担う専門の会社のことです。
向こうが撮っているだろうと任せきりにして誰が何を撮るか決めていないと、必要な写真が誰の手元にもないということが起きます。
元請や下請や協力会社の関係がまだぼんやりしている人はこちらで全体像をつかめます

撮り忘れに気づいたら隠さず早めに報告して相談してください。
早く言えばまだ取れる手が残っていることもあります。
そして日付の偽装や別の写真の流用は絶対にしないでください。
記録の信用を一度失えば他の写真まで疑われてしまいます。
現場監督は工事写真のどこを見ている?
まず何を確認する?
写真を受け取った時に見るところはそれほど多くありません。
私が現場監督として写真を受け取ったときは、次のような点を見ていました。
- 工程ごとの写真に抜けがないか
- 隠れる部分が隠れる前に撮れているか
- 黒板の内容と写っている中身が合っているか
- 何の写真か第三者が見て分かるか
最後の一つが意外と見落とされます。
撮った本人には分かっても初めて見る検査の人に伝わらなければ、記録としては弱いんです。
受け取った写真をそのまま流さず自分の目で確かめる。
その姿勢は写真に限らず現場のあらゆる確認に通じます。
受け取る前に自分の目で確かめる考え方は足場の引き渡し確認でも同じです

工事写真は現場の記憶 まとめ
工事写真の撮り方は細かいルールより考え方から入ると迷いません。
埋まる前、隠れる前を撮る。迷ったら引きと寄りを多めに撮る。
この二つを守るだけで後から困る場面はぐっと減ります。
施工管理で残す工事写真は、その後の書類作成や検査でも重要な記録になります。
写真の次に現場でついて回るのが安全書類です

工事写真は埋めてしまう前の現場の記憶です。
土をかぶせた現場は何も語りませんが写真だけは覚えていてくれます。
本日もご安全に!

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