「退職金が入れば、しばらくは食っていけるだろう」 「10年働いたし、それなりの金額になるはずだ」
もしあなたが、そんな皮算用をして退職届を出そうとしているなら、一度立ち止まってください。 その計算、大赤字になる可能性があります。
依願退職(自己都合退職)は、自分の意思で会社を辞めること。 これは会社側から見れば、「契約期間の途中で、勝手に抜けた」ということでもあります。
そのため、日本の多くの企業では、自己都合退職に対して「退職金をガッツリ減額する」というペナルティを設けています。

今回は、元社長の私が、会社の就業規則の裏側に隠された「退職金のカラクリ」と、一円でも多くもらって辞めるためのチェックポイントを解説します。
1. 知らないと死ぬ。「自己都合係数」という減額システム
退職金の計算式は、一般的にこうなっています。
基本給(またはポイント) × 勤続年数 × 【退職事由係数】 = 退職金
この最後の「退職事由係数」がクセモノです。
- 会社都合(定年・リストラ)の場合: 係数は「1.0」(満額支給)
- 自己都合(依願退職)の場合: 係数は「0.5〜0.8」(減額支給)
会社によっては、「自己都合なら半額(0.5)」という設定にしているところもザラにあります。 例えば、本来なら200万円もらえるはずが、あなたが「自分から辞めます(依願退職)」と言った瞬間に、100万円に減るのです。
「自分の意思で辞めるんだから、ペナルティは払えよ」 これが、日本の会社の言い分です。 まずはこの「依願退職=退職金カット」という現実を直視してください。
2. 「3年の壁」を超えているか?
次に確認すべきは、勤続年数です。 多くの会社では、退職金の支給要件に「最低勤続年数」を設けています。
最も多いパターンが「3年」です。
- 2年11ヶ月で辞めた場合:退職金 0円
- 3年1ヶ月で辞めた場合:退職金 30万円
たった2ヶ月の違いで、天と地ほどの差が出ます。 もしあなたが今、入社2年目や3年目なら、就業規則を血眼になって確認してください。 あと数ヶ月我慢するだけで、数十万円が変わるなら、そこは「戦略的」に耐えるべきです。
3. そもそも「退職金」は法律上の義務ではない
「うちの会社、退職金いくら出るんだろう?」 そう思っているあなたに、衝撃的な事実を伝えます。
法律上、会社には退職金を払う義務は一切ありません。
私がいた建設業界の中小企業でも、退職金制度がない会社は山ほどありました。 「えっ、ないの!?」と辞める時に騒いでも手遅れです。
今すぐ、会社の総務に行って(あるいはイントラネットで)「就業規則」と「退職金規程」を探してください。 そこに「退職金を支給する」と書いてあって初めて、あなたにはもらう権利が発生します。 書いてなければ、10年働こうが20年働こうが、0円です。
4. パワハラで辞めるなら「減額」を受け入れるな
一番もったいないのは、本当は「会社都合(パワハラや劣悪な環境)」で辞めるのに、会社に丸め込まれて「依願退職(自己都合)」扱いになり、退職金を減額されるケースです。
「君の将来のために、自己都合にしておこう」 会社がそう言うのは、あなたの将来のためではありません。会社の財布(退職金を安く済ませたい)のためです。

もし辞める理由が会社側にあるなら、勇気を出して交渉してください。 「これは私のワガママ(自己都合)ではなく、会社環境のせい(会社都合)ですよね?」と。 認められれば、退職金は満額(係数1.0)になり、失業保険もすぐに出ます。
戦う価値は、数百万円分あります。
まとめ:退職金は「ご褒美」ではなく「次の戦費」
「依願退職」というカードを切る時、退職金は過去の労い(ご褒美)ではありません。 次のステージへ這い上がるための「軍資金(戦費)」です。
だからこそ、1円でも多く確保しなければなりません。
- 就業規則を見る(そもそも出るのか?)
- 係数を確認する(自己都合でいくら減るのか?)
- 勤続年数を見る(あと少しで増えないか?)
社長に辞表を叩きつける前に、電卓を叩いてください。 感情で動くと損をします。 賢く計算し、満額のキャッシュを持って、堂々と次の人生へ進みましょう。


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