震源は北海道なのに、なぜ東京が揺れる?「異常震域」の不気味さ
地震速報を見たとき、「あれ? 震源は三重県南東沖なのに関東が揺れる?東京が震度3なの?」と驚いたことはありませんか? 震源に近い北海道はあまり揺れていないのに、数百キロ離れた関東が揺れる。
この不可解な現象は「異常震域(いじょうしんいき)」と呼ばれます。「異常」という言葉がついているため、「地球がおかしくなったのか?」「大地震の前触れ?」とSNSで不安が拡散されがちですが、実はこれ、地球の構造上「よくある現象」なのです。
今回は、この現象の正体と、皆さんが一番気にしている「南海トラフ地震」や「能登半島地震」との関係について、わかりやすく解説します。
異常震域のメカニズム:地球内部の「硬いプレート」が揺れを運ぶ

通常、地震の揺れは震源を中心として同心円状に広がります。しかし、震源が地下深く(深発地震)で起きた場合、揺れの伝わり方に偏りが出ます。
わかりやすい例え:柔らかいクッション(マントル)と硬い鉄板(プレート)
地球の内部をイメージしてください。
- マントル(上層): ドロドロとまではいきませんが、揺れを吸収しやすい「柔らかいクッション」のような状態です。
- プレート(岩盤): 硬くて冷たい「鉄の板」のような状態です。
深い場所で地震が起きると、真上(震央)に向かう揺れは「クッション(マントル)」を通るため、減衰して弱くなります。 一方、斜め下にある「鉄の板(沈み込んだプレート)」を伝わる揺れは、減衰せずに遠くまでビビビッと伝わります。
よくあるパターン:オホーツク海や三重県沖の「深い地震」で関東・東北が揺れる理由
日本列島の地下には、東から「太平洋プレート」が深く沈み込んでいます。このプレートは硬く、揺れを非常によく伝えます。 そのため、オホーツク海や三重県沖の「地下深く(数百km)」で地震が起きると、その揺れは太平洋プレートという「高速道路」に乗って、プレートが出口に近い関東や東北の太平洋側まで運ばれてしまうのです。
これが、震源から遠い場所が揺れる「異常震域」のからくりです。物理的には「異常」ではなく「正常」な現象なのです。
【最大の懸念】これは「南海トラフ地震」の前兆なのか?
SNSで最も囁かれるのが「異常震域が起きたから、南海トラフが近いのではないか?」という説です。
プレートの違い:異常震域を起こす「太平洋プレート」と、南海トラフの「フィリピン海プレート」
結論から言うと、「直ちに南海トラフ地震に結びつくものではない」というのが専門家の一般的な見解です。
- 異常震域(深発地震): 主に東から沈み込む「太平洋プレート」の内部深くで起こることが多いです。
- 南海トラフ地震: 南から沈み込む「フィリピン海プレート」と陸のプレートの境界(浅い場所)で起こります。
つまり、地震を起こす「主役(プレート)」も「場所(深さ)」も違うのです。
専門家の見解:直接的な引き金ではないが、「日本列島が押されている」事実は同じ
ただし、全く無関係とは言えません。太平洋プレートもフィリピン海プレートも、日本列島をギュウギュウと押していることには変わりありません。 異常震域が起きるということは、プレートに強い力がかかっている証拠。「南海トラフの直接的な前兆」ではありませんが、日本全体が地震活動期にあるという認識を持つきっかけにするべきでしょう。
「能登半島地震」との違いは?浅い地震と深い地震の恐怖

2024年1月1日に発生した「能登半島地震」と、異常震域は何が違うのでしょうか?
能登との比較:能登は「直下型(浅い)」。異常震域は「深発地震(深い)」
- 能登半島地震: 地下10数kmというごく浅い場所で断層がズレて起きました。そのため、震源の真上が激しく揺れ(震度7)、甚大な被害が出ました。
- 異常震域: 地下数百kmという深い場所で起きます。地表に届くまでに距離があるため、揺れは広範囲に広がりますが、震源直下が壊滅することは稀です。
能登の地震は「足元で爆発が起きた」イメージ、異常震域は「遠くの地下の振動が伝わってきた」イメージです。被害の出方は全く異なります。
長周期地震動:遠くでゆっくり揺れる現象との混同に注意
能登半島地震の際、東京でも高いビルがゆっくり長く揺れました。これは「長周期地震動」という現象で、異常震域とはまた別物です。 地震のニュースを見るときは、「震源の深さ」に注目すると、どんな揺れ方をするか予想しやすくなります。
まとめ:名前ほど「異常」ではない。過度に恐れず、防災グッズの点検を
「異常震域」という言葉は怖いですが、地球のメカニズムとしては説明がつく現象です。 「南海トラフの前兆だ!」とパニックになる必要はありませんが、「日本はどこにいても、どんな形でも揺れる」という事実を再確認させられます。
このニュースをきっかけに、非常持ち出し袋の水や食料の賞味期限をチェックする。それこそが、私たちがすべき最も正しい反応です。

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